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  • 執筆者の写真ヨネヤマ

英国ではじまった外食産業者による医療従事者への食事の提供

更新日:2020年4月15日



ヨネのコメント:

東京をはじめ、全国各地でレストランなどの飲食店が一時的に店を閉じる、また閉店するお店も増えてきました。イギリス ロンドンの動きは日本でも取り入れたい動きです!

政府からの取り決めも明確で、一般市民にもわかりやすいと思いました。


デリバリーはピンポンダッシュで

 新型コロナウィルス感染拡大の防止策として、イタリアをはじめ、スペイン、フランスなどヨーロッパ大陸の各都市につづき、英国も2020年3月23日(月)に外出制限命令が出され、いわゆるロックダウン(都市封鎖)となりました。


 それより遡ること1週間前の3月16日(月)から、ボリス・ジョンソン首相または政府の要人による毎日の恒例会見がスタート。


 「人の集まるところに行かない、できるだけ家で仕事をする」という提案から始まり、休校(医療関係など現在必要とされている職種に従事するキーワーカーの子供は例外)のお知らせ、そしてパブ、レストラン、ジムなどの全面クローズの指示へと徐々に内容が厳しくなっていき、3月23日(月)の会見でロックダウンへと至りました。


 内容としては、以下の4つの場合を除き外出を禁止とするもの。


①食料など生活必需品の買い出しのための最低頻度の外出 ②1日1度の運動のための外出 ③自らの医療のため、また隔離されている人を助けるための外出 ④どうしてもリモートワークできない場合の通勤のための外出


 結婚式や洗礼式も禁止、葬儀も最少人数の身内のみの参列で、と付け加えられていました。

 また、上記の理由により外出する場合も、人との距離を2メートル以上とること(ソーシャル・ディスタンシング)が要請されています。

 同じ家に住んでいる人と行動するのはOKですが、そのほかの人と交わるのはNG。デリバリーもピンポンダッシュのように、荷物をドアの前に置いていくというスタイルが主流に。

 受け取りサインが必要な場合は、サインがわりに、開いたドアの前に配達物を置いて写真を撮ることで代用しているバイク便も。


 各社、人との距離を保ちつつ、通常の業務を行えるように努力しているようです。

公園の入り口にも、このような表示が。道行く人もジョギングをする人も、2メートル空けるために目と目で合図して道を譲り合っています。


ここ1週間は空っぽの小麦粉の棚

 ロンドンの地下鉄やバスも、運行をしてはいるものの、運行頻度を減らしたり、地下鉄駅は一部閉鎖したり、という策を講じています。


 スーパーや小さな商店も、ソーシャル・ディスタンシングの2メートルを確保するために、店内に入れる人数を制限していて、時間帯によっては2メートル間隔の長い点線のような列を見かけるようになりました。


 供給が不足しているものにも段階があって、ロックダウン直前からしばらく、店の棚から姿を消したのが、いずこも同じトイレットペーパー、除菌ジェル、そしてパスタなど日持ちのする食品、卵。これらが棚にぼちぼち戻ってくる頃に不足し始めたのが小麦粉で、いまだにどこのスーパーにも置いていません。


 卵に関しては、外食産業に流れる予定だったものが、間もなくスーパーなどへのルートを確保したようで、現在は問題なし。


 おそらく同じように小麦粉も一般消費者向けに小分けにする術と、流通のルートが整い次第、近くスーパーの棚に戻ってくるのでは……と期待しています。

スーパーの小麦粉の棚は、ここ1週間以上空っぽのままです。


そして近づいてみると、ここにも「2メートルの距離を」というサインがあります。


閉店3日後に立ち上げた非営利のプロジェクト

 今回のロックダウンによって、多くの産業に影響が及んでいるのは言わずもがな、なのですが、なかでも特に大きな打撃を受けたのが外食産業です。


 突然の閉店を余儀なくされたレストランのなかには、生き残りをかけてテイクアウトや仕出し、はたまた食材や日用品を販売する店舗へと舵を切る店も多数ありますが、それでも失業者が溢れる事態となりました。


 そんななかで、失業したシェフやウェイターをなんとかサポートしようと、早々に立ち上げられたプロジェクトがLondon Restaurant Co-operative。


 もともとロンドン中心部でLe BabとMaison Babという2軒のレストランを経営していた、スティーブン・トーザーさんが立ち上げたプロジェクトです。


 スティーブンさんにお話をうかがいました。

 「ずっと満席だったうちの店が、次の週には半分になり、そしてその次の週には空っぽになって、閉店を決めたのは3月17日(火)のことです。全部で50人いるスタッフに給料を払うことができなくなってしまったのです。


 ほかの店も同様で、突然、多くのシェフやウェイターが職を失いました。彼らには能力と才能があって、しかも働く意欲もある。僕らには、厨房という働ける場所もある。


 そこで、職を失ったシェフが料理を作って、ウェイターが配達をする非営利のプロジェクト=London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)を、閉店から3日後に立ち上げたのです」

London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)を立ち上げたスティーブン・トーザーさん。


London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)のシステムは明快で、日替わりで毎日2品(うち1品はベジタリアン)を各6.50ポンドというリーズナブルな価格で提供。


 メニューは、カレーやグラタンなど、低コストで素朴な、でも英国人にとっては馴染み深い料理ばかりで、ウェブサイトからオーダーすると、自宅まで届けてくれるというもの。


 利益は100%、キッチンとデリバリースタッフに入るという仕組みなのだそう。

閉店したスティーブンさんのレストランLe Babのキッチンで、失業中のシェフたちが腕を振るっています。


医療従事者へ食事を寄付できる

 さらに、英国では現在長時間労働を強いられている医療従事者が満足に食事を得られないという問題が発生していることもあり、ウェブサイトから医療従事者への食事1食分4ポンドで寄付することも可能。


 「最初は寄付金のあった数のみ病院にデリバリーしていましたが、『従業員の給与の最大80%を支援する』という政府決定を受けて、(金銭的不安が和らいだため)コンスタントに100食、病院に届けられるようになりました。今後さらに多くの食事を届けられるようにしていくつもりです」とスティーブンさん。


「外食産業、特に厨房で働く人間は常に早いテンポで、フル回転で働いている。今回の騒動は、時速100マイルで走っていた車がコンクリートの壁にクラッシュしたようなもので、経済面もさることながら、突然やるべきことを失った彼らの精神面も心配です。少しでもこのプロジェクトが助けになればと思います」

London Restaurant Co-operativeのインスタグラムより。飾り気のないメニューながらも、経験あるシェフの作る味が、各家庭と医療従事者へと届けられます。


●イタリア料理のトップシェフの場合

 イタリア料理のトップシェフ、アンジェラ・ハートネットさんも、医療従事者への食事の提供を精力的に行うシェフのひとり。


 ご近所の友人、ルル・ディロンさんが自宅キッチンで食事を作って運んでいるのを知り、彼女のプロジェクト「Cook-19(クック‐19)」の活動に加わりました。

ロンドンのトップシェフのひとり、アンジェラ・ハートネットさん。医療従事者のための食事作りに乗り出しました。


現在、長時間労働を強いられている医療従事者は、病院内の食堂の営業時間外も勤務が続き、また食材を買うこともままならない状況。ボランティアによる食事の提供は貴重です。


以来、多くの賛同者や協力者を得て、プロジェクトのインスタグラムには、女優のジェンマ・チャンさんと彼女のボーイフレンドで俳優のドミニク・クーパーさんが病院に食事を運ぶボランティア風景の写真も登場。


●ミシュランスターのシェフは料理デモ配信

 レストランの厨房から自宅キッチンへと舞台を移し、インスタグラムで「Social kitchen isolation」と銘打って料理のデモンストレーションを行っているのは、ミシュランスター・シェフのジェイソン・アサートンさん。


 最近は、事前に配信日時と必要な材料を告知し、視聴者が一緒に料理できるようなライブストリーミングも配信し始めました。

ジェイソン・アサートンさんのレストランのひとつBerners Tavern。閉店2日前に取材したときの写真です。

ジェイソン・アサートンさんのインスタグラムから。自宅キッチンからクッキング・デモンストレーションを配信しています。


●注目の人気パティシエも

 また、ヘンリー王子とメーガン妃のウェディング・ケーキを制作したことで、一躍注目を集めたパティシエ、クレア・プタックさんも、インスタグラムにレシピを掲載。 そのほか、スイーツのデリバリーも始めている模様。

クレア・プタックさんのインスタグラムから。グルテンフリーのバニラ・アーモンド・ラズベリー・ケーキなど、美しくも美味しそうなスイーツのレシピを紹介しています。


●老舗ショップ&バーの宅配

 一方で、一風変わった宅配を開始したのが、ロンドンのウィスキー・シーンを牽引する老舗ショップ&バーのミルロイです。


 ミルロイが今年2月にオープンしたカクテル・バーThe Proofing Room(ザ・プルーフィング・ルーム)では、ビン入りのオリジナル・カクテルを英国内なら48時間以内に宅配。


 スーパーのワイン売り場の棚が空っぽになりがちな昨今、こちらも人気が高まりそうです。

ミルロイが展開するカクテル・バーThe Proofing Room(ザ・プルーフィング・ルーム)。


The Proofing Room(ザ・プルーフィング・ルーム)のエグゼクティブ・バー・マネージャー、クリス・タナーさんが展開するビン入りカクテルを宅配サービスしています。


大打撃を受けつつも、助け合いの精神と新たなアイデアで、力強くこの難局を乗り切ろうと土俵際で踏ん張る英国の外食産業。


 この状態が早く終息を迎え、以前のような活気を取り戻す日が一日も早く来ることを祈ってやみません。


London Restaurant Co-operative(ロンドン・レストラン・コーポラティブ)

Cook-19(クック‐19)

Jason Atherton Instagram(ジェイソン・アサートン)

Claire Ptak Instagram(クレア・プタック)

The Proofing Room(ザ・プルーフィング・ルーム)


安田和代(KRess Europe)

日本で編集プロダクション勤務の後、1995年からロンドン在住のライター編集者。日本の雑誌やウェブサイトを中心に、編集・執筆・翻訳・コーディネートに携わる。 ●ロンドンでの小さなネタをつづったインスタグラム @gezkaz ●運営する編集プロダクションのウェブサイト http://www.kress-europe.com/


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